アルツハイマー型認知症の原因「アミロイドベータ」とは?そのはたらきや蓄積を防ぐ方法を解説!

アミロイドベータのはたらき、分解の仕組み、蓄積を防ぐ方法について

アミロイドベータとは

アミロイドベータ(Aβ)とは、脳内で作られるタンパク質の一種で、人の脳内で産生されています。
健康な人の脳内では、産生されたアミロイドベータは短期間で分解・排出されるので蓄積することはありません。アミロイドベータには正常に機能するものと、異常なものの2種類が産生されていることが分かっています。
正常なアミロイドベータには神経保護作用がある一方、異常なアミロイドβは毒性が強く、タンパク質同士で集まり塊を形成しやすい性質を持っています。
また、正常なアミロイドベータは、異常なアミロイドベータのはたらきを抑制することで神経毒性を防ぐことが明らかになっています。

アミロイドベータ分解・排出のしくみ

アミロイドベータが分解・排出される仕組みについてはいまだ研究段階ですが、いくつかの方法が判明・想定されています。

血管への排出

脳には、血液脳関門という器官があります。これは血管を流れる血液と脳との間にある関所のような機構のことで、病原体などの有害物や不要な物質が入り込まないようにするためのフィルターの役割を果たしています。
脳内で産生されたアミロイドベータは自由に脳内から血液中に移動することができません。そこで、血液脳関門を通通ることができるようアミロイドベータを分解する酵素が存在します。

理化学研究所の研究で、ネプリライシン(中性エンドペプチターゼ)が脳内でアミロイドベータをアミノ酸に分解する主な分解酵素であることが報告されています。分解されたアミノ酸は血液脳関門を通り抜けて血液へ排出されます。
熊本大学の研究では、インスリン分解酵素が脳内でのアミロイドベータを分解する事、また、アミロイドベータを血液脳関門へ排出させることにインスリン分解酵素が関与していることが報告されています。
2型糖尿病(インスリンの働きが低下して発症する糖尿病)患者は特にアルツハイマー型認知症になる確率が高いことが様々な国の研究結果としてわかっていますが、これは、インスリンが大量に放出された状態のとき、インスリン分解酵素がインスリン分解に忙しいため、アミロイドベータの分解に手が回らない状況である可能性が考えられるとのことです。

免疫細胞による貪食

ラットを用いた実験で、脳の免疫担当として存在するグリア細胞がアミロイドベータを貪食(どんしょく:細胞内に不必要なものを取り込み、消化・分解する作用)し、アミロイドベータが減少することが確認されています。

脳のリンパ系排出システム「グリンパティックシステム」による排出

近年、人の脳内でグリア細胞によるリンパ様作用「グリンパティックシステム」によりアミロイドベータの脳外への排出に関与していることが発見されました。
グリンパティックシステムとは、グリア細胞が縮小して脳内の隙間を広げ、また、動脈の周囲を包み込んで血管の外側に隙間を作り、そこへ脳脊髄液が流れ込み脳の神経細胞周囲にしみだして老廃物を取り込み脳外へ排出するシステムです。
グリンパティックシステムは睡眠中にはたらく脳の掃除作用で、アミロイドベータの排出にも関与している可能性が示されています。

アミロイドベータが蓄積しすぎるとどうなる?

異常なアミロイドベータは集まって塊を形成しやすく神経毒性が高い性質を持っており、分解・排出されなかったものは小さな集合体(オリゴマー)を形成し、この集合体が脳の神経細胞を死滅させていることが分かっています。脳の神経細胞が死滅していくことで脳の萎縮(神経細胞数の減少)がおこり、脳内の情報伝達ができなくなるため、記憶障害や認知機能障害が発生します。
集合体がさらに集まり、水に溶けない繊維状の大きな塊になったものを「老人斑」と呼び、アルツハイマー型認知症患者の脳スキャン画像でよく見られる病変です。

アミロイドベータが蓄積され始めてアルツハイマー病を発症するまで20年~30年といわれていますので、若いうちからアミロイドベータを蓄積させないよう、対策をとることが重要です。

アミロイドベータの蓄積を防ぐには?

アミロイドベータはもともと無害のたんぱく質です。たとえ、正しく機能しない異常なアミロイドベータが産生されても分解・排出ができていれば問題ありません。
アミロイドベータの分解と排出が正常に行われる(蓄積を防ぐ)方法として、

 ● 2型糖尿病を防ぐ生活習慣(バランスの良い食事、有酸素運動)
 ● 質の良い睡眠

以上の2つが有効といわれています。これらの方法が、アミロイドベータの正常な分解・排出を促す理由についてご説明します。

アミロイドベータ蓄積を防ぐ習慣1 2型糖尿病を防ぐ生活習慣

「アミロイドベータ分解・排出のしくみ」でも述べたように、インスリン分解酵素がアミロイドベータの分解・排出に深く関わっていることから、インスリン分解酵素がアミロイドベータの分解にも使われるよう、インスリン分泌量が多くなりすぎないようにすることが重要です。

2型糖尿病とは

2型糖尿病は、高カロリー・高脂肪な食事や運動不足が原因でインスリンの分泌量が低下したり、インスリンの作用が効きにくくなったりして発症する糖尿病です。
糖分が体内で消化されるブドウ糖として血液に吸収されます。血中のブドウ糖が増えると膵臓からインスリンが分泌されブドウ糖を筋肉などの細胞へ送り込んで代謝を促し、血糖値(血液中のブドウ糖濃度)をコントロールします。高カロリー・高脂肪など糖分の多い食事を続けると、血中の多量のブドウ糖を処理するのに多量のインスリンが分泌されますが、細胞へ送り込む作用がうまく働かなくなったりするなどして高血糖状態になり、糖尿病を発症します。
この時、インスリン分解酵素は多量に分泌されたインスリンの分解に消費され、アミロイドベータは分解されず蓄積されていくと考えられています。インスリン分解酵素がアミロイドベータも分解できるよう、インスリンの節約を心がける生活習慣を送ることが重要です。

バランスの良い食事

炭水化物やカロリーの多い食事、甘いお菓子の摂り過ぎは、インスリンの多量分泌に繋がります。
1日の複数回の食事で、いろいろな栄養素をまんべんなく摂るように意識すると、バランスの良い食事に近づいていきます。食事の内容を「主食(炭水化物)、主菜(たんぱく質と野菜など)、副菜(野菜など)、一汁(野菜など)」と意識すると、栄養バランスを考える際の参考になります。

有酸素運動

ウォーキングやジョギングなどの適度な有酸素運動も、糖尿病予防やアミロイドベータ蓄積予防に有効な方法です。有酸素運動により、摂取カロリーが消費され筋肉が増加することでインスリンの働きを高める事が分かっています。
また、有酸素運動をすることでドーパミンの分泌が促されるのですが、ドーパミンはネプリライシン(アミロイドベータを分解する成分)の分泌を調整する作用があることが、理化学研究所の研究で発見されました。
適度な強度の有酸素運動を継続的に行うことで、アミロイドベータの分解・排出を恒常的に促進させ、蓄積を防ぐことが可能になります。
さらに、有酸素運動は脳にある海馬の容積を増大させたとする研究結果が発表されています。海馬は記憶力や学習、判断力を司る部位であり、海馬の容積増大は認知機能の向上を維持する事にも役立ちます。

アミロイドベータ蓄積を防ぐ習慣2 質の良い睡眠

アミロイドベータの分解・排出システムである「グリンパティックシステム」は人の睡眠中に機能するシステムです。マウスを用いた麻酔による睡眠とグリンパティックシステムの研究によれば、ある麻酔薬組み合わせて使用した時に深い睡眠状態(ノンレム睡眠)特有のゆっくりとした脳波と心拍数が再現され、この深い睡眠状態において、脳の老廃物排出を促進させるグリンパティックシステムが最も効率的にはたらくことが明らかになりました。
質の良い睡眠とは、簡単に言えば「熟睡感があって朝すっきり目覚めることができた」かどうかにあると考えます。
睡眠の長さについては、成人の場合7時間前後の睡眠をとるグループが、生活習慣病やうつ病などの発症および死亡に至るリスクが最も低いという調査結果が示されており、6時間から8時間程度が適正な睡眠時間と考えられています。

質の良い睡眠に関するおすすめの本

この本は、認知症を防ぐため質の良い睡眠をとるにはどうすればよいか、脳のゴミ出し(グリンパティックシステム)と食事等との関係にフォーカスし、より実践的な方法を紹介しています。
「寝る前3時間」をどのように過ごしたらよいか・・とタイトルにはありますが、それだけではなく、眠りにつく時間から逆算して一日をどのように過ごしたらよいか、また、良い睡眠・認知症予防に効果的な簡単な生活習慣についても教えてくれる内容になっており、結構お得な本です!
実験結果・研究データをもとにその理由や方法が紹介されていますので、実践して損はないと思います!
認知症予防、アルツハイマー病予防のため、そして質の良い睡眠をとりたいという方にもおすすめの本です!

アミロイドベータの蓄積を防ぐには、生活習慣を整えることが重要!

私たちの体には、ホメオスタシス(生体恒常性)という性質が備わっています。ホメオスタシスとは、気温や環境など外部の変化や、病原菌の侵入や体液の成分濃度などのような内部の変化に対し、身体を一定の状態に保つ様々なはたらきを指します。
ホメオスタシスには、ホルモンなどの分泌を調整する「内分泌系」、血管や臓器など体全体を調節する「自律神経系」、細菌やウィルス、異常な細胞から体を守る「免疫系」の3つの機能があります。
アミロイドベータの分解・排出はまさに、ホメオスタシスのはたらきによるものです。
テレビや本など様々なメディアで、ホメオスタシスの機能である「自律神経系」を整える方法や「免疫系」を高く保つ方法などが数多く紹介されていますが、その内容は、基本的には日常の生活習慣を整える事に集約されています。また、体を健康に保つ方法として昔から言われているのは、「バランスよく食べる」「適度に運動する」「しっかり眠る」の3つです。
食事・運動・睡眠の3つの生活習慣を整える事を意識し、アミロイドベータの蓄積を防いで、アルツハイマー病を予防しましょう!

参考文献

  • 富田泰輔 “アミロイドβタンパク質” 脳科学辞典 https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89%CE%B2%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA(参照2024年8月)
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